出雲
ひたすら山口へ向かう。
山口
ファーストキューブ山口に荷物を預け、自転車を借りる。
湯田温泉へ自転車で向かう。中原中也記念館で展示を見る。中原中也はフランス象徴派の詩人であるポール・ヴェルレーヌやアルチュール・ランボーに大きな影響を受けた。ヴェルレーヌとランボーの関係に材をとった映画であるアニエスカ・ホランド『太陽と月に背いて』を12月18日に見たところなので、関連する展示を興味深く感じる。8月1日から9月23日には特別企画展で「中也とランボー、ヴェルレーヌ」というものも開催されていたらしい。四方田犬彦が寄稿したパンフレットが販売されているので購入する。
山口情報芸術センターを見学する。劇場、ギャラリー、映画館、図書館といった機能を含んだ複合施設で、三宅唱『ワイルドツアー』の制作に参加していたのがこのセンターの研究開発チームである。まちとしょテラソや岡崎市図書館交流プラザなど、こういった交流機能を備えた図書館施設には懐かしい思い出がある。2階の映画スペースで奥山大史『僕はイエス様が嫌い』の上映を見る。2019年7月19日の初見時には子供を無垢の象徴として用いているところに反感を持ったらしいが、今回は丁寧で好感の持てる映画だと素直に思う。ギャラリーではウェンデリン・ファン・オルデンボルフ「Dance Floor as Study Room—したたかにたゆたう」が開催されている。30分から40分ほどの映像展示がいくつかあるが、それぞれのループ再生のタイミングが同期されており、再生が終わるごとに会場がダンスフロアになる。あいちトリエンナーレ2016に参加していた作家らしい。豊橋のビルの2階の薄暗い部屋で上映していた映像作品。たぶん、何となく、覚えている。
山口大学近くの定食屋、ばんちゃ屋で山賊焼を食べる。最近は自分でも同名の料理を作ることがあるが、そちらは長野県内の名物である揚げ物だ。山口県内の名物である骨付きの鶏もも肉の焼き物は、いつかの楽しいクリスマスに食べた記憶のあるような料理であり、ホリデーにはちょうどよい。
梅乃屋で入浴する。内大浴場、露天風呂、サウナ、そして29℃の自家源泉による水風呂のようなもの。
松前健『出雲神話』を読み切る。面白い。講談社学術文庫版の発売は2024年10月だが、本書がもともと発表されたのは1976年である。それまでの認識では、古代出雲は実態がよく分からないがなぜか特別扱いで神話の重要な舞台となっている地であった。そのため、神話の中の出雲は中央貴族の理念的産物でありそこに実態などなかったのだという説や、神話の物語のような中央貴族と出雲の勢力との対立の実態があったと考えるべきだと言う説などが、唱えられてきていた。そのような中、松前が提唱していたのが出雲「宗教王国」論であった。その後、1994年の荒神谷遺跡や2000年の出雲大社の巨大杉柱の発見により「実態がよく分からない」という前提が過去のものとなってしまった。すなわちそれ以前になされた研究はすべて「旧時代」のものになってしまうのだが、三浦佑之の解説によると、
「宗教王国」論が松前を救出した
のである。晩年の松前は、1980年代以降の数々の発見を踏まえて、「古代出雲宗教王国が、弥生時代から存在していたことが、立証された」と述べたそうだ。それは自信過剰にしても、旧時代に提唱されたもののいまだなお検証の余地を有して生き残っている興味深い説が宗教王国論である。